ハーバードからの手紙 Who you are

■要約
ハーバードビジネススクールの、卒業生を送る最後の授業で、各クラスの教授たちが送ったメッセージ集。授業で話された内容をそのまま文章に起こしたもの。
もちろん全ての教授がこのような人達ではないと思うのだけど、流石ハーバードという印象。世界のビジネス世界でのリーダーになるべき人達に送られる、珠玉の祝辞集。みんながこれを胸に刻んで今後の社会人生活を歩んでくれたら、世の中はどれほど素敵になるだろう。

印象的だった物を一つ。
Dr ジャイ・ジャイクマー。製造科学の専門家で、登山家でもある。1980年からハーバードMBAで教鞭をとる。

1966年にヒマラヤの7,300mの山頂に友人と二人で登頂した。登頂したが、日が陰り始めていて時間がなかったので軽くお祝いをした後で山を下る。雪庇(風によって雪が庇状に斜めに凍りついた場所)があったため、どちらかが滑落しても、もう一方が犠牲にならないようにお互いがお互いをつなぐロープをほどいた。ジャイクマー氏が先頭に立ち、雪庇を踏んだ時、大きな亀裂音が走った。彼は本能的に飛びのき、相棒も反対側に飛びのいた。その瞬間雪庇が崩れ落ち、ジャイクマー氏は数メートル下の急斜面に落下した。勾配が急すぎたため、そこからさらに滑り出し、滑走の過程で荷物はばらばらに飛び散り、服が破れ、雪面との摩擦で皮膚が焦げた。2km近く落下してようやく落下は止まったが、道具は全て散逸し、体中に激痛が走った。上半身は殆ど何もまとわず、吹雪の中を雪壁にもたれかかりながら24時間以上歩き続け、ようやく人家を発見したところで彼は意識を失ってしまう。

気付くと彼は山中の一軒家の中で老婆に介抱されていたが、言葉が通じなかった。立とうとしても足の骨が折れていて、立つことができない。その老婆は身振りで、麓にある別の民家まで彼を連れて行くという。100m進んでは休むことを繰り返し、その老婆は3日間ジャイクマー氏をおぶって麓に送り届け、ロバに乗らせて病院に連れて行くよう交渉し、彼は病院に送り届けられた。もう一人の友人は行方不明から戻ることはなかった。怪我から快復しても、いつまでたってもヒマラヤの経験が頭から離れなかった。彼は本当に幸運だった。

彼は寄付を集め、ヒマラヤの麓の村に、学校を建て、教員を雇った。アメリカにわたった今も、寄付を集めることは続けている。その学校で、教育を受け、少しでも幸運に恵まれた人々を増やしたいと彼は思った。幸運は成功を生み、成功は義務を生む。その義務を果たそうとすることで、人はさらなる高みへとのぼる。

□感想
幸運は成功を生み、成功は義務を生む、というテーゼは面白いね。
特に僕らは、先進国に生まれ、まっとうな教育を受けることができ、家族や友人に愛され、社会的にみてまっとうなスタートラインに立てている時点で、既にものすごく幸運だったりするのだろう。

ジャイクマー氏の場合は、その幸運をくれた人が大変にわかりやすい形でそれを恵んでくれたけれども、僕らにとって同じ事が当てはまる。ヒマラヤの麓の一軒家に住んでいる老婆がジャイクマー氏に親切にしたのと同じように、僕らも誰かの無償の奉仕の結果に肖っている。それは日本を作ってくれた人達の奉仕の結果でもあるし、日本が存する国際社会の安定に寄与してくれた人達の奉仕の結果でもあるし、自分たちの親のように、多くの犠牲を払って自分を生み育ててくれた人の好意の結果でもある。そういった要素があるからこそ、僕らは成功できるのだと思うし、成功者であればあるほど、多くの恩恵を受けていると言って間違いない。

全ての成功者がその恩を返して当然であるかどうかは倫理的な議論に任せる。ただ、精神効用の観点から考えるに、誰かに恩を返すために、何かに邁進することは、とても価値があることだろう。誰かのニーズを叶えてあげようとする事で、利己的な目的に向かう時にはなかったエネルギーや粘り強さが生まれる。
自分がライフワークを考える時も、いったい誰にどのような形で恩返しをしたいのかという発想が欠かせない。

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