パスポートの電子申請システムの凍結 公共組織の効率性

旅券電子申請、中止へ 無駄遣いと指摘受け外務省

 財務省が無駄遣いの有無を点検する予算執行調査で、廃止の検討を求めた旅券(パスポート)の電子申請システムについて、外務省は10日、来年度予算の概算要求に盛り込まない方針を明らかにした。電子申請の受け付けは、本年度末で中止される見通し。
 外務省幹部は「住基ネットのカードが広がっていないことなども利用者の少ない理由の一つだが、とりあえずシステムを凍結する。将来にわたってやめるわけではない」と説明している。
 財務省の調査によると、2005年度の旅券電子申請の利用件数は総発給件数約375万件のうち103件にすぎなかったが、システム維持費は年8億円超に上った。
 このため、財務省は「政府は一般行政サービスの電子申請システム化を推進しているが、旅券発給の場合、厳しい財政事情からシステムの継続は合理性を有するとは言い難い」と指摘していた。(了)
共同通信) - 7月10日17時48分更新

っつー事なんだけどさあ、この人たちに、民間並みの経営努力のインセンティブを与える組織理論・制度設計は作れないのかな。
旅券申請1件当たり1600万円のコストって、一体おれの税金何に使ってくれとんねん。パスポなび というパスポート申請に関する情報サイト http://www.ryoken-inq.mofa.go.jp/fw/dfw/csv/index.html
を見てびっくりしましたよ。

■ サービス認知率の問題
これさ、そもそも知ってる人ほとんどいないよね? あくまでもGuessですが。つい去年期限切れでパスポート再発行したばかりだけど、こんなサービスどこにも記載がなかったから忙しい中わざわざ窓口まで行って、待たされて、交付受けたんだよね。待たされている時にカウンターのあるフロアに張ってあるポスターとかを見て回ってたんだけどさ、暇だったから。電子交付可能なんてどこにも書いてなかったぞ。

ものすご〜く基本だけど、システムに億単位の投資をするなら、そのシステムが対象とするユーザーに対してサービスの認知を図らないといけないよね。「我が社は癌の特効薬の開発に成功した! (ちなみに誰にもその薬の存在を教えてません・・・)」とか、民間ならたちの悪い冗談でしょう。

■ サービスの利便性の低さ
1) 対象とされている人が少ない
サイトで3ステップあることを教えてくれていますが、

ステップ1 電子申請手続きの事前確認

電子申請対応都道府県を確認する

電子申請を利用するには、お住まいの都道府県が電子申請に対応していることが必要です。
ええ? 電子申請に自治体が対応してないと無理なのか?
http://www.ryoken-inq.mofa.go.jp/fw/dfw/csv/direct/sub/jichitai.html にリストがあるけど、
電子申請対応都道府県一覧
宮城県(平成17年5月13日〜)
栃木県(平成17年3月31日〜)
茨城県(平成17年4月18日〜)

埼玉県(平成17年7月25日〜)
群馬県(平成17年10月3日〜)

和歌山県(平成18年4月28日〜)
岡山県(平成16年3月29日〜)

香川県(平成17年10月11日〜)

福岡県(平成18年3月20日〜)
長崎県(平成17年4月1日〜)
熊本県(平成17年3月28日〜)
宮崎県(平成18年6月12日〜)

12県だけじゃん。サービスの対象となる層が少なすぎるよ。。ほとんどの人はここで対象外になる。

2) 申請プロセスが面倒
以下、云々書いてあるんだけど、オチからいうと、オンラインで全部できる訳じゃなくて、結局郵送手続きが必要。

電子申請に必要なものを準備する。電子申請を利用するには、以下のものが必要です


パソコン

インターネットに接続可能であること。

なるほど。必要ですな。まあ電子申請させてくれって言ってるくらいだからPCくらい持ってるでしょう。

住民基本台帳カード

申請者本人の公的個人認証サービス電子証明書が格納されたもの。

ふむふむ。これも電子手続き関係にはお決まりのものだよね。

ICカードリーダライタ

住民基本台帳カードの読み込みに対応しているもの。

へー。家で申請するにはこれが必要なんだね。買ってドライバをインストールしろと書いてある。

戸籍謄本または抄本:一通

発行日から6か月以内のもの。

え? 謄本って電子化されてんのか? と思って詳細を見てみたら、されてませんでした。これは郵送しろということらしい。電子申請してるのに謄本は郵送とは・・・ユーザーにとって意味あるのかね。そもそも電子申請って「わざわざ郵送手続きを踏まないで旅券の申請ができるという意味での」利便性の向上とペーパーレス化による省資源を目的としたものじゃないの? 郵送させちゃだめじゃん。

写真・自署(サイン)

郵送提出と電子データ提出があります。

写真とサインを電子データで提出するらしい。専用ソフトまで用意してくれています。でも、どうせ謄本は郵送しないといけないんだから、わざわざスキャンとかする手間をかける人はいるのか?謄本を郵送させている時点で、根本的にこのサービスをつかう利点がなくなっているので、もうなんだか茶番です。

郵便はがき:1枚

宛先に住民票どおりの郵便番号・住所(○○荘○○棟○○号まで記入)・氏名を記入したもの。

なお、(電子)申請を終えた方は、ステップ1で準備した書類を郵便書留で旅券事務所へ郵送してください。

・・・もう電子申請だかなんだか分からなくなっています。

気を取り直して、っていうかユーザーとしてはもう脱落してるんだけど、とりあえずステップ2へ。

ステップ2 パソコンにソフトウェアをインストール

パスポート電子申請をおこなう場合は、以下のソフトウェアのインストールが必要となります。

順序に従い、インストールをおこなってください。

・Java2 Runtime Environment

申請画面を表示するために必要になります。セキュリティ向上のため、最新バージョンの使用が推奨されますが、お住まいの都道府県により使用すべきバージョンが異なりますのでご注意ください

Java Runtimeも、バージョンをちがえろ、と。

公的個人認証クライアントソフト

お住まいの市区町村窓口で公的個人認証サービスの電子証明書取得時に配布されます。付属のインストールマニュアルに従って適切な設定をおこなってください。

へー。そういうのがダウンロードできるんだね。ん? ダウンロードじゃなくて、電子証明書を取得する時に交付されているはずのものらしい。申請してないので知らないけど、ちょっと検索してみたら、熊本県のHPに、
Windows 98 MEでは使えなくて、
XPについては ServicePack1、ServicePack2 で不具合が起こると書いてある。
http://www.jpki.go.jp/client/info050919.html

Javaライブラリ

申請データに電子署名を付与する際に必要になります。Java2 Runtime Environmentのバージョンに合わせる必要がありますので、ご注意ください。

例によって、ユーザーの方が各県が使用しているバージョンに合わせろ、と。

ステップ3 各都道府県の電子申請受付サイトへ
行ってくれ、と。で、この分では多分交付も郵送ではもらえないんだよね。きっと。

都道府県のサイトで電子申請をおこない、ステップ1で準備した書類を郵送すると申請手続きは完了です。

後日送付されるはがきと受取りに必要な書類を旅券窓口に持参し、パスポートを受領してください。

やっぱり。orz トホホ
コントかっ!! つーの。

労働の結果が、マーケットメカニズムのプレッシャーを受けない状態というのは実に恐ろしいもので、
・対象となるユーザーに、財・サービスが認知されなければ、利用されようがない。
・利用できる人口が極端に限られたサービス(例えば12県への限定)、利用に際して障壁が多いサービス(煩雑な手続き)を作っても、利用者数は増えない。
・利用者数が少ないサービスに大規模投資しても、経済的に見合わない(1件の電子申請してもらうために1600万円のコストが必要)。
などといった、民間では当たり前のはずの考えすら無視される。
一人一人は自覚してるかもしれないけど、組織体としては対策を打てない。
今回はたまたま露顕しただけで、8億円なんて小さい方だと思うと、納税者としては隔靴掻痒の感があるね。組織論に興味がある人間としては興味深いんだけどさ。

公的機関に、サービス向上、組織効率向上のためのインセンティブを与えられる制度設計が必要なのは間違いないよね。

方法1) プロジェクトごとに目的と効果測定方法・結果を開示し、有権者からの査定を受ける。代議士がその意見を吸い上げ、適切な方策を講じることができるようなループを作る。
→ ちょっと理想論に聞こえてしまう、っていう人が多いのでは。民主主義の黎明期からあったはずの正論がなぜ現在十分機能していないかを考えるべきだよね。多分そんな効果測定とかをいちいち見るほどみんな暇じゃないんだよね。生活の糧を得るための経済活動が優先事項だから。

方法2) 1) の修正版。有権者からの査定の代わりに、専門機関を作る。プロジェクトごとに目的と効果測定方法・結果を開示し、専門機関からの査定を受ける。代議士がその意見を吸い上げ、適切な方策を講じることができるようなループを作る。
→ 今回の財務省によるチェックはある意味このアイデアだよね。機能する部分もあると思います。事実無駄遣い指摘してるし。でも限界があるように思います。
結果が悪かったところで、ベンチマークの設定が難しくて、結果が悪いのが仕方ないことなのか、本当はもっと得べかりし利益があったのか判断が難しいって事と、結果が評価できたところで適切な方策がその都度見つかる保証がないし、方策が分かっても実行される保証がない。

方法3) さらに2)を修正。どの程度適切な頑張りがあったかを評価するために、同じ状況で試行錯誤する複数のプレイヤーを比較対象のために設置。サービス受益者がサービスを受けるごとにフィードバックを返す。さらにフィードバックと報酬を直接連動させる。
→ 複数のプレイヤーの設置ってところと、専門機関じゃなくて受益者がサービスを受けるごとに評価っていうところと、評価と報酬を直接連動ってところが違っている。
例えばこの例で言えば、複数の団体が電子申請を管理して、サービスが利用されるごとに来年度の予算が増えるが、サービスが利用されない所は予算削減。予算が活動限界を下回ったら組織解散。とかね。市場原理のまんまですな。もちろん公務員には既得権益がある訳で、こんなプランが現実的に通る訳ないと思うんだけど、アウトソース先にはこの原理が今既に適応されている。(癒着している場合はちがうけどね。)


これを公的機関にも向けている国家ってないのかね。財政破綻しかけている国ならやってもおかしくなさそうなんだけど。
・・・と思って調べたら、

2004年国家負債残高世界ランキング
負債/GDP比率 % 国名
228 % マラウイ
178 % レバノン
164 % 日本
146 % ジャマイカ
128 % ザンビア
123 % セーシェル
118 % アルゼンチン
112 % ギリシャ
106 % イタリア
105 % イスラエル

出展:CIA World Factbook2005 ただしカナダ及びルクセンブルグのデータの出展は下記
OECD FACTBOOK2005 ISBN92-64-01869-7

マラウイレバノンが日本より負債大きいんだね(GDP比で)。つーかこの2カ国しかないんだね。
マラウイは世界最貧国で、国連が食料支援している国。
レバノン中東戦争の後遺症や宗教対立の影響で荒廃していて、首相が去年暗殺されたりしている国。

他に10位以内の先進国をさがすと、イタリアとイスラエルか。。イタリアはこんなこと考えなさそうだし、となるとイスラエル? イスラエルは軍事支出がでかすぎるという全く別種の問題っぽいよね。となると日本がパイオニアになるしかなさそうだ。まあ、アメリカをのぞけば先進国の人口は減っていくトレンドになるのだろうし、特に大きい国家モデルの国では財政も逼迫するでしょう。遅かれ早かれ。そういった見方をすれば、小さい国家モデルと公的機関のパフォーマンス向上の分野で先行しておけば有利だよね。何かと。組織論の研究者のみなさん、がんばりましょう。