若者はなぜ3年で辞めるのか?

新入社員が入ってきましたね。
後輩が入ってくると、改めて、自分が今の彼らの立場にいた時と比べて、どれほど成長できたのだろうか、などと考えてしまいますが、皆さん如何でしょう。

若者はなぜ3年で辞めるのか?
年功序列が奪う日本の未来
城繁幸
光文社新書

著者は富士通の人事部門に長年勤めた後、退社独立し、現在は人事コンサル会社の社長。

乱暴に要約すれば、< 年功序列と終身雇用に特徴づけられる現代の日本の大企業における人事制度は、ビジネスと組織が拡大し続ける行動成長期に適合したシステムではあった。しかし、ビジネスと組織の持続的拡大が前提視できなくなったバブル崩壊後の日本においては、若年従業員の能力発揮を妨げ、かつ、長期的に見ても従業員に僅かな報いしかもたらさない制度である。 >という主張の本。

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来城 繁幸

光文社 2006-09-15
売り上げランキング : 200

おすすめ平均 star
star現代社会に蔓延する「閉塞感」の原因を見事に言い当てた良書!
star若手の不安と原因がわかる本
starするどい分析

Amazonで詳しく見る by G-Tools

日本の大企業の人事を長年経験した著者らしく、若手社員と人事の意識のミスマッチ、実力主義年功序列の狭間の人事部の葛藤、30代の社員に顕在化し始めた問題、世代間対立、などなど、多くの論点に言及。なかなかに面白い。正にその通り!と共感できる主張も多数。キャリアが会社から与えられるという主君・家臣的な発想ではだめで、主体性を持って自分でキャリアを形成していないといけない。等々。当たり前なのだけど耳が痛い人も多いのでは。

一方、バブル崩壊後であっても有効な年功序列制度のメリットにも言及すれば、議論がより包括的になったのではないかとも思う。例えば、

  1. 後輩に職階上追い抜かれる懸念が少ないために、技術継承がより容易になるという利点。勤続年数に応じて経験が増し、生産性が上がる業務における年功序列の有効性(人的資本理論という)。
  2. 従業員一人一人に不正がないか監視するのはコストがかかるが、若年時の労働を一部供託金として預かり、長年まじめに働けばそれを返却することで、低コストで従業員がまじめに働くように誘導できる(インセンティブ理論という)。
  3. 一般的には未婚時よりも結婚して子供ができてからの方が必要な生活費が高くなる傾向にある。企業は若年従業員の賃金をおさえることで、個人よりも有利な条件で金融商品や事業投資機会を活用し、より高い利回りで、かつ年齢に応じて高まる生活費の一般パターンに応じて従業員に資産を返却することが可能になる(生活費理論)。
  4. 他にも、職種や事業部の変更がより容易になり、柔軟な人材育成が可能になるというメリットがあると言われている。
自分自身は、日本の大企業における年功序列制度の廃止や実力主義の導入に反対ではない。自分も若年従業員に位置づけられているし、親しい友人が年功序列制度の弊害に苦しんでいる様子も知っている。また、筆者が指摘する通り高度成長を前提視できていた時代 (加えて、従業員の生活パターンや社会的通念も今と比べれば単一的な時代) に適合した制度がもはや制度疲労を起こしているという主張にも十分頷ける。しかし、年功序列のみに基づき賃金を決定する制度にも、ビジネス結果のみに基づき賃金を決定する制度にも一長一短がある。事実、年功序列制度から結果重視に急進した日本企業に多くの問題が起こったことも指摘されている(例えば「虚妄の成果主義」)。旧来の雇用慣行から大幅にはずれた物をいきなり導入しようとしても、既得権益からの反対に頓挫することが多いだろうし、無理に導入すれば全体的なモチベーションの低下は避けられない。年功序列制度のみでは若年従業員の実力を引き出せないというのがイシューなのであれば、実力主義制度のみで中高年従業員の生産性を引き出せないのもまた同様にイシューだろう。

この著作が現場の苦悩や試行錯誤を整理し、その背景を鋭く指摘していることには疑問の余地はなく、名著だと思う。特に日本の大企業の人事部にとっては必読の書だろう。しかし、ではどのようにすればよいか?、という問いに対しては「従業員が自衛すること」「おかしいと思ったら声を上げることが大事」「働く理由を取り戻せ」などが多く、制度設計についての視座に乏しい (別途有料セミナーで提言しているのかもしれないが)。また、制度設計を考える上で土台となる現状認識についてだが、上記でも述べた年功序列制度の利点についての言及がなく、実力主義礼賛に偏ったものになっているという印象を受けた。それらの点に今後の課題があるだろう。