オケピ!

華やかなミュージカルの演奏を影で支えるオーケストラピット(舞台の下で伴奏をしてくれるオーケストラがある場所ね)
の話。by三谷幸喜

ネタバレ注意。

初めはそれぞれ気になる問題を抱えていたり、団員間でのいざこざがあったりで、ちゃんと演奏できないオーケストラが、最後にはまとまって、全部なんとなくいい方向に向かって、まとまっていって、すばらしい演奏をする話。

登場人物みんなにだらしないところや、人間としての弱みがあり、それをちゃんと描写するんだけど、少数のヒロイズムを持っている人がいて、その人が全体に影響、というよりは歯車に初めの回転を与えるきっかけを作り出して、一人一人の情熱に火をつけ、段々とストーリーができていく。だらしない、うだつの上がらない、だめだめなふつーの人の中にあるヒロイズム。複数の伏線が絡まりあってクライマックスで解かれていく爽快。三谷幸喜の舞台のテーマだと思う。笑いの大学もそうだったよね。

演出としては、初めにそれぞれの人がバラバラの思いを持っていて、まとまらない事を表現しないといけない。でもミュージカルだから音楽としてはまとめないといけない。これがとてもうまく表現されています。複数のテーマを持った旋律をまとめる音楽性も大したものだと思います。すばらしいスタート。

オーボエ役の布施明が本当にいい演技と歌唱をしていた。それぞれの登場人物にストーリーがあって、個性はものすごくでてるんだけど、彼が一番光ってたんじゃないかな。発声もものすごくしっかりしてるし。何時聴いてもものすごく感動する。
舞台のTV中継で観たから、カメラからみれば彼の表情の機微もはっきり映るんだけど、舞台を見に来ている人はきっと表情や目の演技なんて全然わからない。にも拘らず、心を込めて、一挙手一投足、特に手と腕の動きだね、あと目の動き、照れ笑い、声の震えに至るまで、すべてその役を表現し尽くしている。

誰にも心を開こうとしない。常に斜に構えている。誇る事も、悔やむ事も何もなく、ただ流れゆく日々を生きるのが人生と考えている。輝いていた昔に生きる。ただ色があせていくようにすいていく時間。時がすぎて、老いていき、親しかった人が去っていって、自分が生きた証も消えてしまうような気がして、何かしなければいけないんだけど心の襞がすり減ってしまって動けない、っていう役回りなんだけどさ。ものすごく胸を打ちます。
日常、憔悴、過去、後悔、開き直り、追憶、恋慕、葛藤、親心、羞恥、決起、祈り。彼が、一人娘の事で神に祈る場で、「神様」って彼が歌うんだけど、その歌詞への魂の込め方なんてもう。。

っつー訳で、全体的に大満足な訳です。
悔やまれるとしたら、若干長すぎることかなぁ。ミュージカルで一番注目されない場所をストーリーに描くので、どうしても一人一人に商店を当てざるを得ない。普段描かれない人が描かれる事に価値がある訳だからね。描かない人を残す訳にはいかない。3時間以上あったからね。
あとは、指揮者の浮気関係が結局のところ救われてないところもちょっと悔いを残すね。多分解決するんだろうけどさ。そこを見せてほしかったね。途中の三角関係の描写の時間を、解決にまわすだけでいいんだが。敢えてそうしなかったんだろうか。
ちょっとした謎も残してくれるくらいが丁度いいのかもね。

出演は

思い込みが激しいポジティブシンキングが信条のギター(川平慈英)。
オケピの面々をまとめあげるコンダクターの女房役ヴァイオリン(戸田恵子)。
細かいことが気になって仕方ない主婦のチェロ(瀬戸カトリーヌ)。
いい人なんだけどどうも印象の薄いビオラ小林隆)。
腕はイマイチだし人の話を聞かないピアノ(小日向文世)。
男性と屈託なく付き合える性格から勘違いされやすいハープ(天海祐希)。
自分のテリトリーに厳しく、人付き合いを好まないベテランオーボエ布施明)。
ジャズ出身でわがまま放題のトランペット(寺脇康文)。
いくつもの楽器をこなす凄腕ミュージシャンながら、心配の種は宇宙の崩壊というサックス(相島一之)。
脂肪肝でダイエットを余儀なくされているファゴット(岡田誠)。
音楽よりも営業に躍起になっているドラム(温水洋一)。
オケピに初めて参加することになった学生パーカッション(小橋賢児)。
そしてそれらをまとめるコンダクター(白井晃)。

初演時は真田広之松たか子だったらしいんだけどね。真田広之ラマンチャの男に出演していたときに、スパイスの効いたよい演技をしていたので、また再演するときは彼にお願いしたいね。