イノベーション・マネジメント入門

イノベーション・マネジメント入門―マネジメント・テキスト
イノベーション・マネジメント入門―マネジメント・テキスト一橋大学イノベーション研究センター

日本経済新聞社 2001-12
売り上げランキング : 78206


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

第1章 イノベーション・マネジメントとは
1 イノベーションとは何か
Shumpeterの定義では、1)新しいものを生産すること 及び 2)既存のものを新しい方法で生産すること。

5つの領域がある。
1 まだ消費者に知られていない新しい商品や商品の新しい品質の開発
2 未知の生産方法の開発
3 従来参加していなかった市場の開拓
4 原材料ないし半製品の新しい供給源の獲得
5 新しい組織の実現

← 新しい組織の実現ってなんだろうね? 組織は目的を達成するためのツールなのだから、2の応用系にすぎないように思うが。

パターンは2種類ある。
1 入来の延長線上で小刻みに改善が行われるもの と
2 画期的で非連続的な変化があるもの

Invention と innovation は違う。ただの発明であっても実際に経済成果が発生することを求め、それが実現されたものがInnovationである。

← 単なる発明とイノベーションの違いは分かるにしても、市場での成功と失敗を定義の中に入れてしまうのはなぜか?事業化されたものとされていないもの、という分け方で十分だし、イノベーションの中でも成功するものと失敗するものがあると考えた方が自然だと思うが。あとでこの謎な定義の理由は解けるのかな。

2 イノベーションはなぜ重要か
2.1 経済成長、発展の牽引役だから。
←経済成長のためには、投入要素である資本・労働が増加するか、生産性が上昇するかそのどちらしかない、という考え方だね。一方で、ケインジアンに代表される、有効需要が増大することによって経済パフォーマンスが向上するという命題もあるので、一概にイノベーションだけがすべてだとは言いきれないと思うけど、確かにイノベーションが経済パフォーマンスを向上させる側面もあるよね。携帯とか、製薬とかは、innovativeな製品がでてきて初めて生まれた一大産業だし。
2.2 企業の浮沈を決定づけるから。
←ChristensenのThe Innovator's Dilemma イノベーションのジレンマではまさにこの話をしている。ディスクドライブ業界、掘削機業界、製鉄業界などでのproduct innovationにともなう企業の栄枯盛衰とか。プロダクトのアーキテクチャに大きく左右されない業界では、あまりイノベーションが企業パフォーマンスには影響しないように思えるかもしれないが、それは「技術的なイノベーション」(Shumpeterの定義の2番目)だけの話であって、例えば人材派遣会社であっても、販路の拡大というイノベーションや、人材教育をして付加価値をつけてから派遣するという方式もイノベーションと言えるだろう。今振り返ってみれば。イノベーションの定義を広くとると、どの企業でも浮沈を決定づけられると言える。差別化するための企業活動の根幹になるからね。(定義を広くとりすぎていてずるい気もするが。)
2.3 生活に対して与えるインパクトが大きいから。
← これが一番納得のいく説明だ。例えば狩猟から農耕っていう方法への変更は時代を区切るInnovationだし、蒸気機関、電気、電球、抗生物質、新聞・ラジオ・TV・インターネットの発明と普及、ものすごいインパクト。
2.4 政策上のテーマだから。
← 因果が逆じゃないのかな。イノベーションが重要だから、政策上のテーマとなる。逆ではない。もし政策上のテーマの話を採り上げたいのであれば、InnovationのBetter Managementが莫大な費用対効果を持っているとかいう話にしないといけないような気がするが。

3 イノベーションの本質
3.1 イノベーションは知識を生み、知識を活用する営みである
イノベーション自体は抽象的な概念。それが具現化したものが新しいサービス・商品・組織など。イノベーション自体は情報なので、漏洩や模倣という問題が発生する。また、社会的な経済活動において契約は重要であるが、Innovationの抽象性ゆえに契約が難しい。そのために企業同士の分業と協業がスムーズに進めにくいと言う問題が出てくる。
3.2 イノベーションはシステムとしての営みである
イノベーションが機能するためには、複数の要素が補完的に機能しなければならない。そのため、あるイノベーションをきっかけとして、他の関連するシステムとの不均衡が発生し、関連分野でのイノベーションが連鎖的に発生することがある。
←これは第2章で言及している産業革命初期のイギリスにおける綿花製造工程で起こった連鎖的イノベーションで見事に説明されている。一つの部分だけ突出したことで他の部分のインバランスが発生したり、逆に一つの部分だけがボトルネックになっている時にボトルネックを解消するイノベーションが発生したりするよね。前者の例では、例えば自動車ができたのに効率的に舗装道路を造れないからその技術が開発されたとか。後者の例では、例えば田中耕一氏がノーベル化学賞をもらった件。タンパク質のわずかな違いによって疾病が起こることは分かっているし、疾病が予測できればそれに対応する薬を開発することもできるけど、肝心のタンパク質を調べる技術がボトルネックだった(調べる技術はあったけど、不正確だった)。田中耕一氏の研究では分析対象のタンパク質を破壊せずにイオン化することで、厳密な質量分析と、組成の特定を可能にした。
3.3 イノベーションは社会的な営みである
イノベーションをになうのは人間であり組織だから、イノベーションは社会的営みである。イノベーションが生まれる基本要因は1)ヒト(その主体である個人など)、2)社会(そのヒトが所属する組織・制度・社会など)、3)時代(その社会がおかれている時間軸)の3つ。これらがすべて絡み合わねばイノベーションは起こらない。分析としては、1)を対象にするのが起業論・リーダーシップ論・教育論・人材育成論など。2)が組織論・経済学・政策論・経営管理論・法学・社会学など。3)が技術史・経営史・経済史・科学史など。
←ここの分析、というか考え方は面白い。ヒト・社会・時代という分類をしたのもとても目のつけどころが良いように思う。なるほどね。
3.4 イノベーションは矛盾に満ちた営みである
イノベーションには多くの矛盾が伴われる。1)成功した時の報酬の大きさと、成功するか分からないという不確実性。このため、大企業がイノベーションに取り組み送れたり、あるいは受け手がその価値を評価できなかったり、拒絶反応を起こしたりする。2)もうひとつは創造性と効率性の矛盾。イノベーションを生むためには自由闊達な組織風土がある方が望ましい。特に、画期的、飛躍的なイノベーションにはそうした条件が必要である。確かにトヨタのカンバン生産方式など、効率性を進める上で生み出された活気名イノベーションもあるが、一般的には新たな道を切り開くことと(Exploration)ひとつの道を突き詰めること(Exploitation)の間にはトレードオフがある。
←うーむ。そうなのだろうか。ExplorationとExploitationとの間にトレードオフがあるという命題は、March 1991によるらしいのだが。。例えばマンハッタン計画において原爆が製造された時はどうだったのだろう。原爆は当時の兵器の常識からみれば明らかにDiscontinuousなInnovationだけれども、そんな自由闊達な雰囲気ではなかったのでは?と思うが。
社内で新しいイノベーションを興す時の話を考えてみても、イノベーションを起こす担当の部署をおいて、その部署にイノベーションを起こすインセンティブとリソースを与えたら、それなりにできるものはできるという印象だが。Marchさんの論文も読んでみましょうかね。

4 イノベーション・マネジメントとは
4.1 イノベーションの特質を理解し、その創出や活用に主体的に取り組んだり、そうした取り組みを促進、支援(あるいは制約)すること
←というわけで楽しみですね、ということで。
でも、なんだか不安が残る。この本を読んでいって、自分が普段やっているようなInnovationを起こすにはどうしたらよいか、という話は出てくるのだろうか。仮説だが、多分その方法論とかはでてこないような気がする。多分一企業の中で、どのようにすればInnovationを起こせるか、とかは、今自分が所属している会社がやっている以上のことはなかなかでてこないように思う。
どちらかといえば、国家全体、産業全体を見渡した時にどのようにすればInnovationが起こるか、起こせるか、というマクロな話になるような気がするが。。まあその時はその時で、新しい研究テーマが増えたとおもえばよいのでいいのだが。
読み進めてみようと思う。