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古典派は貨幣や信用を、実体経済を包む名目上の存在にすぎない(貨幣ヴェール論)ととらえていたのと対照的。


アロー (by 中谷巌)
1911-。アメリカ生まれ。
アダム・スミス以来の新古典派経済学研究の集大成をしつつも、生涯を通じてその限界を指摘。「アローの不可能性定理」は投票のパラドクスに関する研究であり、経済学以外にも幅広い影響を与えた。

新古典派経済学の集大成としては、

  1. 「マーケットメカニズムはいかなる条件の元で競争的均衡状態(すべての材の市場において需給が一致するような均衡価格の体系が存在する状態)を達成することができるか」という問題に対して「効用を極大化する多くの消費者と利潤を極大化する多くの企業からなく競争的市場においては、確かに競争的均衡は存在する」ことを数学的に証明。
  2. 市場が競争的均衡から乖離しても、一定の条件下ではその均衡状態は自動的に回復されることの数学的証明。
  3. 競争的均衡の「効率」は、「(任意の個人の効用を損なうことなしには、それ以外のどの個人の効用も引き上げることができないという意味で)パレート効率」であるということの数学的証明。

マーケットメカニズムの限界についての指摘としては、

  1. 有名な「アローの不可能性定理」。マーケットメカニズムは消費者のカネによる投票を通じてパレート最適な意味で効率的に資源配分を決定するメカニズムであるが、これは「公正」に資源配分を決定することはできない。例えば、貧乏人は所得が全く増えなくても、金持ちの所得だけを増大させる競争的均衡であってもパレート最適な意味で効率的ではあるが、貧乏人は相対的にはさらに貧乏になるので、誰が見ても「公正」であるとは言えない。
    しかしながら、民主的政治プロセス(選挙での投票)によって、社会的厚生を最大にするような所得配分を決定することはできない(所得配分だけでなく、投票に基づくあらゆる民主的意思決定は社会的厚生を最大化できない)、ということを数学的に証明。
  2. 取引費用(Transaction Cost *4)、という概念の導入(整理?)。材・サービスで、取引コストの高さから、「市場の不成立」という問題が生じることがあり、それが市場原理の限界となる。例えば公共財はフリーライダーを効果的に排除する費用が高くつきすぎるため、多くの場合価格メカニズムを利用することが困難である*5。
  3. 市場原理が有効に機能するための信頼・道徳。市場原理がいつでも効率的に働くわけではない。プレーヤー間の信頼・道徳といった前提が崩れる場合、市場原理は有効にワークしない。例えば金融取引のような長期にわたる賃借関係における相互信頼。医者と患者にように、情報の非対称性が大きい場合における、医者の職業倫理。

経済学以外での業績
政治学社会学・哲学・医療(特に不確実性が存在する状況下では競争メカニズムが最適な資源配分を達成できないという文脈で)・組織論(情報の経済学の文脈)・在庫投資・公共投資の理論など。

この辺りから、経済学に根ざしていながら幅広い領域に対する提言を行っている人が増えてくる印象。アローも。